
いまや「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉は、ビジネスメディアやセミナーなどで日常的に飛び交っています。しかし、現場に目を向けると、その熱量とは裏腹に、DXがなかなか進まないというリアルな現実が横たわっています。
私自身、多くの企業の現場と関わる中で、理想と現実のギャップを痛感しています。今回は、そのギャップを整理しながら、中小企業が直面する「DXが進まない本当の理由」に迫っていきます。
「改革したい気持ちはある」でも…
現場の方や経営層とお話をすると、口々に「変えていきたい」「今のままではいけない」という意識を持っていることがわかります。
にもかかわらず、多くの場合こう続きます。
- 「どう進めたらよいのかわからない」
- 「自分が動いてよいのかわからない」
つまり、改革への意欲はあるのに“最初の一歩”が踏み出せない。そんな状態に陥っているのです。
「進め方がわからない」と「自らは動けない」は別の課題?
この2つの言葉、一見似ていますが、本質的には異なる問題を含んでいます。ただし、現場では密接に絡み合っており、多くの場合は仕事への取り組み姿勢や個人の資質にも起因します。
「進め方がわからない」=「現行業務が可視化されていない」
このフレーズは、現場で頻繁に耳にする“課題”です(※あえて「問題」ではなく「課題」と表現しています)。掘り下げていくと、「現在の業務をどうすればもっと楽に、効率的にできるかが見えていない」ことに行き着きます。
現場の多くの業務は、前任者や先輩から引き継いだ“やり方”で回っており、それに多少の改善を加える形で今日まで運用されてきています。そのため、部分的な最適化(=現場の裁量でできる範囲の改善)にとどまり、業務全体を俯瞰して改善する「全体最適」には至らないのが現状です。
このあたりが、単なる“デジタル化”と、本質的な“DX”との違いでもあります。
DXとは「部分最適」ではなく「全体最適」
例えば、エクセルでの集計作業を効率化するためにマクロを導入するのは「デジタル化」です。一方、DXではもっと広い視野が求められます。
- 入力情報は適切か?
- 処理の中に重複やムダはないか?
- アウトプットは本当に現場で活用されているか?
- 過去の慣習に縛られて非合理な手順が残っていないか?
こうした“全体最適”の視点を持ち、現行業務のフローを可視化し、改善ポイントを洗い出す。そして、仮説を立て、上司や経営層、関係部門と連携しながら進めていくことが、本来あるべきDXのアプローチです。
つまり、
「進め方がわからない」=「業務全体の流れが可視化されていない」
という構図が浮かび上がります。
可視化が生む、新たな気づきと一歩前進のヒント
業務の流れを俯瞰的に捉えることができれば、ムダや非効率が見えてきます。中には自分ひとりの力では動かせない要素もあるでしょう。そんなときは、根拠(エビデンス)を明確に示しながら、上司や関係部門に協力を仰ぐことが求められます。
このようにして初めて、「改善によって得られる効果」も可視化され、次の判断ができるようになります。
- 単なる手順変更で済むのか?
- システム導入が必要なのか?
適切な対応策を導き出すプロセスも明確になってくるのです。
マインドセットの転換が鍵
「進め方がわからないから仕方ない」と現状維持を選ぶのではなく、
「何らかの手段を使ってでも、業務をラクにしたい」
という前向きなマインドへの転換こそが、DXのスタートラインです。
とはいえ、理想と現実のハードルは高い
実際には、「業務改善の経験が少ない」「問題を論理的に整理して解決まで導く力が足りない」という課題もあります。
その結果、
- 「自らは動けない」と思い込んでしまう
- 「どうにかしなければ」という思いより、保身に走る
- 「誰かがやってくれるはず」「この会社では無理だ」と諦めてしまう
というネガティブな思考に陥ってしまうことも、決して珍しくありません。
でも、希望はある
そんな方々にお伝えしたいのは、
「あなたの“困った”は、すでに誰かが経験し、乗り越えた課題かもしれない」
ということです。
一人で抱え込む必要はありません。同じような悩みを抱える仲間や、過去にそれを乗り越えた経験者とつながることが、希望への第一歩です。
次回は、この「希望の光」をどう実現に結びつけていくか、具体的な方法についてお話しします。