
DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉が世間で頻繁に取り上げられる中、現場ではなかなか進まない──そんなギャップに、多くの企業が直面しています。
私自身も多くの企業様と接するなかで、「改革を求める時代の空気」と「現場のリアル」との間に、埋めがたい溝があることを痛感しています。今回は、そのギャップの構造と、特に中小企業におけるDX停滞の背景について、現場の声を交えながら考察していきます。
改革したい気持ちはある。だが動けない──前回の振り返り
前回は「DXを進めたい気持ちはあっても、どう進めていいか分からない」という課題について触れました。
しかし今回は、さらに一歩踏み込みます。
現場の担当者がすでに諦めモードに入っているケースについてです。
「自ら動くのか?」という問いに、現場が沈黙する理由
現場でよく聞かれるのが、
- 「現業が忙しくて、改善や改革を考える時間がない」
- 「自分から動く余裕なんてない」
という声です。
本来であれば、「忙しいからこそ改善を進めて効率化を図るべき」なのですが、実際には「忙しいからこそ考える暇がない」という、矛盾した状況に陥ってしまっているのが現状です。
この言葉の裏には、個々人の複雑な思いや職場環境の問題が詰まっていると思います。そして、それが積み重なることで、デジタル化やDXの推進が阻まれてしまっているのではないでしょうか。
「DX化を進める」と経営が言っても、現場は冷ややか
そんな空気感の中、経営層が「我が社もDXを推進する」と掲げても、現場からの反応は冷ややかです。
その結果、「どうせまた空回りで終わる」「やる気を出しても損するだけ」といった諦めのムードが蔓延し、何も変わらないまま現在に至っている、という企業も少なくありません。
現場の本音に見る「停滞の構造」
現場の声には、以下のようなリアルな本音が見え隠れしています。
- やる気を出しても反対される:「やり損」
- できる人に仕事が集中する:「不公平感」
- やる気はあるが能力が伴わない:「意見や問題提起だけは立派」
- 業務が属人化していて周囲が関われない:「他人は関係なし」
- 業務継承は自分の役目ではない:「管理職の仕事」
- 自分が退任してからでいい:「変化に慎重」
こうした愚痴のような声は、実は個人の性格や資質にも起因しており、組織や仕組みだけでは解決できないのが難しいところです。つまり、個人の資質に依存した状態では、「全体最適化」など夢のまた夢なのです。
「学び直し」が理想。でも現実は…?
もちろん、理想は個人のリスキリングを進め、人材育成に力を入れることです。しかしながら、
- 学生など将来を担う世代には投資効果が見込めても、
- すでに職場に定着した「大人たち」には響きにくい
という厳しい現実があります。
だからこそ、「まちの総務」が果たす役割
そんな中で注目したいのが、まずは共通業務である「バックオフィス業務」からDXを進めるというアプローチです。
すでにこのブログでも繰り返し紹介していますが、以下のようなステップが有効です。
- 各社が独自で行っている業務を見直す
- 標準化されたベストプラクティスをそのまま導入する
- 評価ではなく「譲れるかどうか」で判断する
結果として、同じシステム・同じ支援体制が整えば、企業間でノウハウを共有しながら、DXを加速できます。
もう「一社単位で悩む時代」ではない
もはや、1社ごと・1人ごとに悩む時代ではありません。悩みは共有する時代です。
同じインプット環境・同じアウトプット環境が整えば、バックオフィス業務や総務業務のDXは確実に進みます。
たとえ最初は数社単位での取り組みでも、それが次第に大きな波となり、業界全体を動かす原動力になり得るのです。
最後に:気概ある経営者とともに歩むDXの第一歩
DXは、最先端を目指すばかりが正解ではありません。
まずは足元から整えることが重要です。
「うちの会社は特別だから」と言う前に、他社事例に学び、標準化された方法を採り入れる。そんな一歩が、未来の働き方を大きく変える第一歩となるでしょう。
ともに歩める、気概のある経営者との出会いを、心から願っています。