企業のITサポートを担当する中で、多くの現場で「DXとは何か?」という問いに直面してきました。しかし、現時点でも明確な正解を提示するのは難しいというのが正直なところです。それでも、さまざまな取り組みを通じて、少しずつその輪郭が見えてきたように感じています。今回はその気づきを言語化し、DXの本質に迫ってみたいと思います。

■ DXを「自社視点」だけで捉える危うさ

DXやAIの導入について議論する際、多くの企業はまず「自社の業務にどう役立つか」「成果をどう出すか」という視点で考えがちです。もちろん、それ自体は合理的で重要な出発点です。しかし、その視点だけにとらわれてしまうと、DXの本質を見誤ってしまう可能性があります。

実際、業務改善や効率化を目的とするならば、「DX」よりも「デジタル化(デジタイゼーション)」の方が即効性があり、効果も見えやすい場合が多いでしょう。そのため、特に中小企業向けの研修などでは、DXという言葉が使われていても、実際にはデジタル化の初歩的な取り組みが中心となっているケースが少なくありません。このギャップが、DXの理解を難しくしている一因でもあります。

■ DXはどの視点から考えるべきか?

では、DXの本質を捉えるためには、どのような視点が必要なのでしょうか?
ここで重要になるのが、「社会構造」からの逆算的なアプローチです。

少し極端に聞こえるかもしれませんが、川上(情報の源流)に遡って考えることで、個別最適に陥らない視点が得られます。目の前の課題だけを見ていると、DXは単なる業務改善ツールに過ぎなくなってしまうからです。

具体的に言えば、「まちの総務」的な視点、つまり個社の課題を俯瞰し、業種や業界を横断して共通する課題構造を捉える思考が求められます。企業を横串に通して見たときにこそ、AI・クラウド・ビッグデータ・IoTといったDXの技術が持つ本質的な価値が見えてくるのです。

■ 行政に見る「横串の視点」から学ぶ

例えば行政機関を見てみましょう。市町村、都道府県、そして国。それぞれが独自に業務を行い、予算規模や進め方もまちまちです。大規模システムを導入している自治体もあれば、完全にアナログな運用を続けているところもあります。

こうした状況を「まちの総務」的視点で眺めると、同様の構造が企業内にも存在していることが分かります。部門ごとに業務が分断され、異なる仕組みで進められ、それぞれに担当者がいます。このような状態が、従来の「デジタル化」の限界です。

そこに登場したのが「デジタル庁」です。
デジタル庁は、社会全体を横断的に見渡し、統一されたインフラと方針のもとで、官民連携による未来志向のDXを推進しようとしています。これは、DXのあるべき姿を象徴しているとも言えるでしょう。

■ 企業版「デジタル庁」的視点でDXを再定義する

企業においても、DXを本質的に進めていくには「自社のことだけを考える」のではなく、「業界全体」「サプライチェーン全体」など、より広い視野でのアプローチが必要です。

もちろん、こうした視点を一個人や一企業がすぐに実現できるとは限りません。しかし、少なくともこのような思考を持って議論に臨むことで、AIやクラウド、ビッグデータ、IoTの持つ本来の価値を最大限に引き出す道が開けてくるのです。

■ DXの視点は「俯瞰」から「自社への落とし込み」へ

ここで大事なのは、あくまで「大きな視点からスタートし、自社に落とし込む」という姿勢です。
理想論ばかり語って何も進まないのでは本末転倒です。しかし、最初から自社だけの都合でDXを設計すると、部分最適に陥りやすくなります。

だからこそ、社会構造や業界全体の動向という「川上」の視点を持ち、それを「川下」にあたる自社の文脈へと落とし込む。この思考プロセスが、DXを単なるデジタル化に終わらせない鍵になります。

■ まとめ:DXの本質価値を見極めるために

「自分たちには関係ない」「スケールが大きすぎて想像できない」
そんな声もあるかもしれません。しかし、だからこそ、まずは視点を変えることから始めてみませんか?

DXは、目の前の業務改善だけではなく、社会全体の構造変革の一部でもあります。大きな視野を持ちながら、自社にとっての最適な道を探っていく。このバランスこそが、DX成功への第一歩だと私は考えます。