中小企業を対象にDX研修を行う中で、毎回のように研修テキストをアップデートしています。
そのたびに違和感を覚えるのが、次の3つの言葉の使われ方です。

  1. デジタイゼーション:特定業務のデジタル化
  2. デジタライゼーション:業務フローやプロセスのデジタル化
  3. DX(デジタルトランスフォーメーション):ビジネスモデルや企業文化の変革

これらは本来、ステップの異なる概念ですが、現場ではしばしば混同され、誤って使われています。私自身も例外ではなく、特に研修の場ではこのズレが“共通認識の壁”として立ちはだかることがあります。

「DX」を望む声の裏にある“本音”

たとえば、研修時にこんな声を耳にします。

  • 「社内のデジタル化を進めたい」
  • 「アナログ業務からの脱却を目指している」

こうした前向きな動機は素晴らしいのですが、「DX」や「AI」「ビッグデータ」「IoT」といった先端キーワードを並べても、現場の課題には響かないことが少なくありません。
まるで“対岸の火事”や“遠い未来の話”に聞こえてしまうのです。

しかし、目指している方向性は間違っていません。根底にあるのは、「非効率な業務を見直し、より効率的な体制を築きたい」という共通の思いです。

では、どう進めるべきか?2つの実践的アプローチ

DXを進める上で私が常に強調しているのは、「あなたの困ったは既に解決している誰かがいます」ということです。
その前提に立つことで、次のような2つの進め方が見えてきます。

1. 自社単独で悩まず、他社の知見を積極的に取り入れる

特に「①デジタイゼーション」「②デジタライゼーション」の段階では、“他社の成功事例を真似る”という姿勢が非常に有効です。

  • 実績のあるツールを選べば、トラブル時も共通言語で相談可能
  • セミナーや業界イベントでの情報交換が、実践的なヒントになる

無理に自社独自の仕組みを評価・導入するよりも、すでにある“良い仕組み”を積極的に採用する方が現実的です。
こうした流れを後押しするのが、地域コミュニティや「まちの総務」のような役割ともいえます。

2. 他社も巻き込んだ“全体最適”を目指す

次のステージとして、「③DX」—つまり企業文化や構造そのものの変革—を考えるなら、一社だけでは限界があります。
その代表例が、デジタル庁の取り組みです。

行政の現場では、都道府県・市町村ごとにバラバラのシステムが導入され、全体最適が難航してきました。
しかし、逆説的に“何も進んでいなかった”自治体の方が、標準化によって一足飛びに最適化できたという事例もあります。

また、「脱ハンコ」も印象的でした。
かつては強く抵抗していた人たちが、トップの決断一つで一気にデジタル化へと舵を切りました。
これは中小企業における「脱FAX」などにも通じる話で、担当者の“こだわり”が変革の壁になっていることも珍しくありません。

DXの本質は“上流のインプット情報”の最適化にある

「自社だけでは動けない」「相手(取引先)が変わらない」と嘆く声も多く聞きます。
しかし、そうした現実に対しては、

  • 影響力のある“救世主”の英断
  • 複数社を巻き込んだ全体最適の設計

のいずれかが突破口になるはずです。

もちろん、ここでお伝えした内容がすぐにすべての現場に刺さるとは限りません。
ただ、DXの本質は上流工程から情報を効率化・最適化することにあります。
これこそが「全体最適」への第一歩であり、自社だけの“部分最適なデジタル化”から一歩踏み出すためのカギです。

まとめ:DXは「共に進める」から始まる

今後のDXセミナーでは、こうした話題をより体系的に取り入れ、“個社”ではなく“地域全体”“業界全体”として変革を進めるムーブメントをつくっていきたいと考えています。

一歩一歩課題をクリアするのか、あるいは思い切って最適解へジャンプするのか——
どちらの道を選ぶかは、今まさに現場に立つ皆さんの判断にかかっています。