
企業のシステム相談を進める中で、思わぬところで議論が頓挫する場面にしばしば出会います。その要因のひとつが、「FAXの存在」です。
前回は、「FAXがあることで責任の所在が曖昧になってしまう」現象についてご紹介しました。特に「お客様第一主義」の業種においては、FAXによる非効率な業務フローが温存されがちです。そして、それは民間企業に限らず、行政や金融機関といった公共性の高い分野でも同様に見られます。
行政や金融機関で進まない「脱FAX」〜制度改革のはざまで〜
今回は、行政や金融機関の「脱FAX」事例を少し違った視点から読み解いてみましょう。
数年前、金融庁は「主要行等向けの総合的な監督指針」からFAXに関する記述を削除し、デジタル化への流れが期待されました。しかしながら、現場ではその動きがまだまだ限定的であり、「現実は変わっていない」という声も根強いのが現状です。
改革が進まない理由として、もっともらしく語られるのが次のような意見です。
「高齢者など、デジタルに不慣れな層への対応が必要である」
これは確かに配慮すべき視点ではあります。しかしながら、こうした“思考停止”とも言える理由で全体のDXを停滞させてよいのでしょうか?
たしかに昭和の時代であれば、デジタル不得手な層が多数派であったかもしれません。しかし、今は令和の時代です。高齢者層もスマートフォンを使いこなし、LINEで家族とやり取りをする時代になりました。
「少数派を見捨てるのではなく、分けて考える」
これが本来のあるべき姿ではないでしょうか。
つまり、全体最適として「脱FAX」を推進しつつ、本当にFAXでしか対応できない一部の方には、丁寧に移行支援を行う。全体のDX推進と個別対応を分ける戦略が必要です。
議員との連絡の86.1%が未だにFAXという現実
ある調査によれば、国会議員とのやり取りにおいて、実に86.1%が「FAXからメールに移行していない」と回答しています(※プレスリリース:コロナ禍における政府・省庁の働き方に関する実態調査)。
調査の中には、
- パソコンで作成した文書をプリントアウトしてFAXで送信
- 受信側が再び内容をデータ入力している
といった、人的リソース・紙資源ともに非効率なプロセスが明らかになっています。
このように、「相手がFAXを使っているから、こちらもFAXを使わざるを得ない」という構造が温存されており、個人や企業レベルの努力では限界があります。
解決のカギは「トップの決断力」
では、解決策はあるのか?
答えは「イエス」です。しかしそれは、現場や一企業の努力だけでは難しいのが現実です。
「脱ハンコ」「脱フロッピーディスク」のときと同様に、大臣クラスのリーダーによるイニシアティブ(主導権)が不可欠です。
たとえば、デジタル大臣のような、発信力と実行力を持つ方の明確なメッセージが、制度と文化の変革を後押ししてくれるはずです。
終わりに:FAX文化に必要なのは「空気の変化」
今後、「FAXをやめたいけれど相手が変わらないから自分も変われない」という状況を打破するためには、空気を変えるリーダーシップと、現場への実行支援の両輪が必要です。
停滞を打破するには、時に「強制力」や「制度改革」も必要です。
「脱FAX」は単なる業務効率化の話ではなく、組織の未来を左右するDXの核心でもあるのです。