ペーパーレスの理想と現実

デジタル化の文脈で語られる定番テーマに「脱ペーパー」「ペーパーレス化」があります。業務効率化、環境配慮、コスト削減と、紙をなくすべき理由は数多く語られてきました。しかし、現実には、いまだに私たちの身の回りから「紙」が消える気配はありません。

たとえば新聞。紙媒体の購読者数は年々減少していますが、それでも一定のニーズを保っています。ネットニュースやスマホアプリで情報収集が当たり前になった今でも、朝の習慣として紙の新聞を読む人は存在し、折込みチラシを楽しみにしている読者層もいます。

ビジネスの現場に根づく紙文化

企業の中でも状況は似ています。会議資料、稟議書、名刺、会社案内パンフレットなど、今も多くが紙で運用されています。近年はプロジェクターやオンライン会議の普及で、ペーパーレスの兆しも見えますが、根本的には「紙ありき」の運用が前提になっているケースが少なくありません。

PCが1人1台与えられていても、最終的には印刷を前提とした文書作成が当たり前。特に日本の企業文化では、印刷された資料を手渡すことそのものに意味があると捉える風潮も根強く残っています。

世界はどうか?紙文化の国際比較

日本では紙の存在感が大きい印象ですが、海外ではどうでしょうか? 外資系企業やITスタートアップでは、ペーパーレスがより進んでいるケースも多いと言われています。しかし、実際に業務レベルでどれほど紙が排除されているかは、まだ情報が限定的です。

ISO対応などで必要とされる記録文書や帳票、行政文書の長期保管義務、製造現場での教育資料や作業指示など、多くの場面で「紙であること」が求められているのが現実です。

そもそも紙がなかったら?

思考実験として、もしこの世に最初から「紙」という発明がなかったとしたらどうなっていたでしょう?
伝達手段は当然ながら必要ですから、代替としてデジタル端末や音声技術、ホログラムのようなものが発達していたかもしれません。

情報を見る、伝える、残す。これらの行為がすべてデジタルで完結する世界が最初から存在していたなら、「紙の方が見やすい」「紙の方が頭に入る」という感覚はそもそも生まれていなかったのかもしれません。

紙は「文化」でもある

たとえば名刺交換。ビジネスマナーの基本とされる行為ですが、これをデジタルに置き換えたとき、年配のビジネスパーソンの中には「礼儀がなっていない」と感じる方もいるかもしれません。紙の本、紙の教科書、紙の申請書類――単なる「道具」ではなく、「文化」として私たちの行動様式に組み込まれているのが紙の特徴です。

30年後、紙はどうなっている?

アナログ世代が現在50代・60代。デジタルネイティブ世代も、30年後には同年代になります。その頃には、新たな「紙に代わる伝達手段」が登場しているかもしれません。

一方で、「紙があるからこそ整理できる」「紙だから記憶に残る」というアナログならではの利点が見直されている可能性もあります。

まとめ:「紙の終焉」ではなく「紙の再定義」へ

私は個人的には紙もペンもほとんど使いません。しかし、紙が全廃されるべきだとは思っていません。
むしろ、紙は必要な場面で使う「選択肢」としての位置づけに変わるべきではないでしょうか。

デジタル化を進めるなかで、紙を排除するのではなく、「紙であることの意味」を再考し、適材適所で活用する。それが、真のDXであり、持続可能な業務設計の第一歩ではないかと感じています。