どの業界にも、専門性の高いスキルを持つ「職人」と呼ばれる人々がいます。現代風に言えば、特定分野に秀でた「オタク」のような存在かもしれません。特に中小製造業においては、こうした職人の存在が企業の差別化要因となっていると言っても過言ではありません。
しかし、こうした職人文化には課題もあります。その代表的なものが「属人化」と「技術継承」です。この記事では、ものづくりの現場で頻繁に議論されるこのテーマについて掘り下げます。
よく聞かれる経営者の声
中小製造業の経営者からは、次のような声をよく耳にします。
- 「職人の高齢化が進み、仕事が属人化している」
- 「次世代への技術継承が進まず困っている」
このような悩みを抱える企業は少なくありません。この問題を深掘りする前に、まず2つのポイントを整理してみましょう。
- 専門技術が中小企業の差別化を支えている
- 専門技術を平準化すると差別化が失われるリスクがある
このように、技術継承には矛盾したジレンマが存在します。そこで、「まちの総務」としての立場から、属人化を防ぎつつ技術を次世代に継承するための3つの提案を考えてみました。
技術継承と属人化防止の3つの提案
1. 業務を細分化して専門部分を可視化する
まずは業務を細分化し、どの部分が「職人技」に該当するのかを明確にします。すべての工程が難しい技術を要するわけではありません。一般的には、作業の8~9割は代替可能で、最後の1~2割が真の「職人技」であることが多いです。
この重要な部分を特定し、それ以外の工程を標準化することで、効率的な業務体制を構築できます。さらに、この最後の「ひと舐め」の部分を企業独自の「秘伝技術」として守り、ポイントを絞って属人化を推進するのも一つの戦略です。
2. マイスター制度を導入する
次に、重要な技術部分を担う「マイスター」を社内で育成する方法です。選抜された社員に専門技術を徹底的に訓練し、独自の資格制度やインセンティブを設けることで、技術者のモチベーションを高めます。これにより、技術の標準化と競争環境の両立が図れます。
3. こだわりを捨ててコモディティ化する
最後は、こだわりを最小限にし、作業の効率化を目指す方法です。機械化や自動化を進め、標準的な品質を確保することで、コスト競争力を高めます。ただし、このアプローチはアジアの製造業との競争を強いられるため、慎重な判断が必要です。
短期と長期の視点から考える結論
短期的には、「日本的なものづくり文化」を守りつつ、職人技を活かした差別化戦略を取ることが有効です。しかし、長期的には、グローバル市場での競争を見据え、コモディティ化を進める必要性も避けられません。
中小企業にとって重要なのは、この両者のバランスを取りながら、自社の強みを維持・発展させることです。
次回の記事では、実際の製造業界で見られた具体例を挙げながら、さらに深掘りしていきます。ぜひお楽しみに!