ものづくり現場の「属人化と継承問題」とは?
前回は中小企業が抱える課題について現状を分析しました。
今回は、特に「属人化」と「継承制」の問題に焦点を当て、近未来(数年後)からさらに数十年先の未来像を考察します。これを通じて、日本のものづくり文化が直面する課題とその可能性を探ります。
半導体産業に見る「失われた日本のものづくり」
かつて日本の半導体産業は「産業の米」と呼ばれるほど隆盛を極めていました。
私自身もこの業界に携わり、その黄金期を目の当たりにしました。日の丸半導体は、材料から生産設備、製品製造に至るまで世界トップクラスの地位を誇り、その成功を支えた技術力と組織力は圧倒的でした。
しかし、その栄華の裏には「国内競争への偏重」という慢心が潜んでいたとも言えます。日本企業が互いに競争する一方で、グローバル化への備えが十分でなかったのです。こうした姿勢は、バブル崩壊やITバブル経済の収束とともに大きな転機を迎えました。
半導体産業の二つの側面
半導体製造は、以下の二つの主要な側面で構成されています。
- 微細化技術を中心とする設備産業
- アナログICを中心とする職人産業
この両者が、日本の半導体産業の特徴的な強みを支えていました。
微細化技術の設備産業:資本力に左右された未来
微細化技術とは、製品を小型化しながら高機能・省電力を実現する技術です。これを達成するためには高度な技術力だけでなく、大規模な設備投資が必要でした。やがて、技術競争は「設備投資競争」へと変貌し、資本力に勝るグローバル企業が台頭します。その象徴が、TSMCなどのファウンドリビジネスです。
結果として、国内企業はグローバル市場で競争力を失い、「半導体のコモディティ化」が進む中で次第に淘汰されていきました。
アナログIC職人産業:日本の技術力とその限界
一方、アナログIC分野では、熱処理条件や特殊技術を駆使した製品開発が行われ、日本の職人技術が大きな強みを発揮しました。特に、「縦方向の微細化アナログ技術」を軸にしたこの分野は、日本独自の粘り強い開発文化に支えられていました。
しかし、ここにも課題がありました。技術者の世代交代に伴い、技術の継承が途絶えがちになり、管理職や経営層に移った技術者たちの中には、新たな技術開発を疎かにするケースも見られました。その結果、「世界に真似できない」と過信する内向きな姿勢が技術力の停滞を招きました。また、国外に技術が流出し、競争力を失う要因ともなりました。
日本が目指すべき未来とは?
このような歴史を踏まえると、日本のものづくりは「属人化」と「継承」の課題にどう向き合うべきか、答えを一概に出すことは難しいと言えます。しかし、次の2点は明確です。
- 短期的には、専門技術における差別化を進め、中小企業を支える基盤を維持する。
- 長期的には、グローバル市場で生き残るための柔軟な技術革新と持続可能な継承体制を構築する。
おわりに
「ものづくり文化の継承」と「グローバル競争への対応」という相反する課題を抱える中、日本がどのような方向性を示していくべきかを模索することは重要です。短期的な成果にとらわれることなく、未来を見据えた戦略を立てることで、日本のものづくりが再び輝く日が来ることを願っています。