先日、ある中小企業の経営者の方からこんなご相談をいただきました。

「社員向けに、福利厚生の一環としてNISAを活用し、資産形成を支援することはできないか?」

詳しくお話を伺うと、大手企業では自社株購入を支援する「社員持株制度」が整備されているケースが多い一方、中小企業では自社株制度の導入は難しい現実があります。

しかし、だからといって何もできないわけではありません。若手社員を中心に、将来に向けた資産形成の第一歩として「NISA制度」を活用し、金融リテラシーを高めながら企業として社員の将来を後押ししたい、という温かい想いがそこにはありました。

とても素晴らしい視点だと感じました。

もちろん、社員一人ひとりの価値観やライフプランは多様ですので、このような制度に対してどのように受け取るかは個々に異なるでしょう。ただ、会社の想いが伝わることで、前向きに捉える社員もきっといるはずです。こうした点に、制度設計の難しさも垣間見えます。

注目の「職場つみたてNISA」とは?

調査を進める中で、「職場つみたてNISA」という制度がすでに多くの金融機関や証券会社を通じて提供されていることがわかりました。

職場つみたてNISAとは、企業が福利厚生として導入し、社員が職場を通じて少額からNISAを活用した資産形成を行える仕組みです。企業が従業員の資産形成を支援するという観点から、注目が高まっています。

【メリット】

  • 福利厚生の一環として導入しやすい
  • 長期的な資産形成に向いている(低リスク)
  • いつでも資金の引き出しが可能
  • 投資対象商品が多い
  • 売却益や分配金が非課税
  • 月1,000円からスタート可能と少額投資ができる

【デメリット】

  • 一般NISAとの併用は不可
  • 投資対象が一部に限定される
  • 元本割れなど、投資リスクはゼロではない

制度にはいくつかの制約もありますが、企業として社員の資産形成を支援する手段として検討する価値は十分にあると言えます。

導入にあたっての留意点

職場つみたてNISAを福利厚生として導入する際には、以下のような点に注意が必要です。

  • 社員がすでにNISA口座を個人で開設している場合、金融機関の選択に制限がある
  • あくまで福利厚生の一環であり、社員への強制はできない
  • 社員に対してNISA制度に関する基本的な教育や情報提供が求められる

導入初期は制度理解の促進や社内調整など、いくつかのハードルがあるかもしれません。しかし、すでに導入実績のある企業も増えており、事例を参考にすることでスムーズな運用が可能になるはずです。

今回ご相談いただいた企業さまのように、社員の未来に目を向け、実践的な支援を検討される姿勢は「まちの総務」としても大いに共感できるところです。今後も、中小企業の皆さまが取り組める実践的な福利厚生のあり方について、情報を発信し、支援していければと考えています。