
企業の生産性向上や競争力強化を目指す上で、「コア業務」と「ノンコア業務」の分類は非常に重要な視点です。しかし、この明確な線引きが、かえって組織内の「分断」を生み出し、DX推進の妨げとなる可能性があることにお気づきでしょうか。今回は、Webコラムニストの視点から、この問題提起と解決へのヒントをお届けします。
コア業務とノンコア業務の再定義
まず、「コア業務」と「ノンコア業務」について、改めてその定義を確認しましょう。
コア業務(Core Business)
企業や組織の競争力の源泉であり、売上や利益に直結する中核的な活動を指します。
- 主要な製品・サービスの開発、製造、販売
- 独自の技術やノウハウの開発
- 主要顧客との関係構築、マーケティング戦略の立案・実行
- 経営戦略の策定と遂行
ノンコア業務(Non-Core Business)
企業の主要事業には直接関与しないものの、円滑な企業運営に不可欠な業務を指します。
- 経理、人事、総務などのバックオフィス業務
- 施設管理、ITインフラの運用・保守
- 顧客サポート、カスタマーサービス(直接的な売上創出に繋がらない場合)
これらの定義は、しばしば「コア=プロフィットセンター(収益部門)」、「ノンコア=コストセンター(費用部門)」として捉えられがちです。スポーツに例えるなら、「オフェンス(コア)」と「ディフェンス(ノンコア)」のような関係性とも言えるでしょう。
業務効率化の光と影:「3:7の法則」とその先
業務分析において、経験的に「コア業務3割、ノンコア業務7割」という割合が一般的であると言われます。この分類によって、以下の目標が明確になります。
- コア業務: 専門性が高く、属人化しやすい業務
- ノンコア業務: 定型化・仕組み化が可能で、代替が効きやすい業務
これにより、業務量の増加にも柔軟に対応できる効率的な体制を構築できると期待されます。確かに、この「コア・ノンコア分類」は、業務の棚卸しや効率化の方向性を定める上で非常に有効なフレームワークです。説明もしやすく、DX推進の議論でも頻繁に用いられます。
しかし、ここにこそ「意外な落とし穴」が存在します。
専門性と感情が引き起こす「分断」
この分類を現場に適用する際、専門家や長年の経験を持つ方々から、以下のような反発や違和感が生まれることがあります。
- 「この業務は専門性が高く、長年の経験がなければできない仕事だ」
- 「外部の人間には理解できない、門外漢の仕事だ」
これらは、自身の業務に対するプライドや責任感からくる当然の感情です。アドバイスとして、言葉や理屈で効率化の必要性を説いても、感情的な壁に阻まれ、合意形成に至らないケースは少なくありません。
「言っていることはわかるが、自分の業務には当てはまらない」
「効率化で仕事がなくなるのでは…」
このような声は、良かれと思って進めているDX推進が、かえって現場との「分断」を加速させてしまう可能性を示唆しています。これまでの私は、正義感から強引に議論を進めてしまうこともありましたが、ある議論の中で「異なる意見にも寄り添うべきだ」という貴重な助言をいただきました。
「言葉の力」で乗り越える分断:リスペクトを込めたコミュニケーション
責任感を持って業務に取り組む方々に、いきなり「これはノンコア業務だから効率化しよう」と伝えることは、誤解や反発を生む原因となります。たとえ「コア業務に専念するためにノンコア業務を効率化する」という意図であっても、言葉の選び方によっては平行線になってしまうのです。
「コア・ノンコア」という言葉は分かりやすい一方で、時に相手の業務に対するリスペクトを欠いた印象を与えてしまう可能性があります。「言霊(ことだま)」という言葉があるように、言葉の選び方一つで、人の心は和らぎ、前向きにもなれます。
今後は、「コア業務」や「ノンコア業務」といった表現を用いる際も、より優しく、誤解を生まない表現、そしてノンコア業務の実務者への敬意を込めた表現を心がける必要があると強く感じています。例えば、ChatGPTの提案のように、より平易な言葉に置き換えることも有効な手段です。
- コア業務 → 主要業務
- ノンコア業務 → 補助業務
企業がどの業務に注力し、効率化すべきかを見極める上で、「コア・ノンコア分類」は不可欠な概念です。しかし、その導入と浸透には、単なる業務分類だけでなく、言葉の力と相手への深い理解が求められます。
DX推進は、技術的な側面だけでなく、人々の意識と感情に寄り添うことが成功への鍵となるのではないでしょうか。