企業研修を通じて講師として多くの現場に接するなかで、私自身も学びを得ています。
前回は外部研修の価値(=つながり/トランザクティブ・メモリーと
「あなたの困ったは誰かが解決している」)
を論じました。
今回は、社内でデジタル化やDXを進める際の「近道」について整理します。

DXが叫ばれてから10年以上、デジタル化はそれ以上の歴史がありますが、現場での浸透は
まだ道半ばという会社が多いのが実情です。
原因は多様ですが、研修や現場で見えてきた有効なポイントを、実例を交えてお伝えします。

■ 社内変革の近道:まず押さえる「2つの柱」

今回紹介する近道は次の2点です。

  1. なぜなぜ分析を徹底する
  2. 横断組織による活動を仕組む

以降、それぞれのポイントと現場でよく見かける“ハマりどころ”をケースで説明します。

1)なぜなぜ分析のススメ 「手段の目的化」を防ぐ

なぜなぜ分析は問題の根本原因を掘る手法で、トヨタ生産方式でも知られています。
製造業に限らず、ITや建設など多業種で有効です。
システム化の前にまず「なぜ?」を何度も問うことが、失敗を防ぐ最短ルートになります。

ケース①:紙回覧をワークフロー化したい

よくある要望は「紙の回覧をやめたい → ワークフロー導入」。
しかしここで深掘りせずにシステム導入すると、かえって運用負荷や承認ルールの混乱を招きます。
まずは業務フローをシンプルにし、「回覧責任者の権限と範囲」を明確化すること。
不要な回覧を削ぎ落とし、最終承認者の“許可のみ”で済むように設計できれば、身の丈に合ったシステム化が可能です。

ケース②:工場での在庫散乱 → 在庫管理システム導入?

在庫が整理されていないからシステム導入、という流れも多い落とし穴です。
システム導入の前に、まず現状分析と運用ルールの整備を。
お金をかけずに改善できる手順や配置変更が山ほどあるため、先に業務を見直さないと
「手段の目的化(システムが目的化する)」で失敗します。

ケース③:外観不良だからAIで全数検査

AIや自動検査は魅力的ですが、根本原因の追求を飛ばして検査装置だけを入れるのは危険です。
不良発生の源流(材料、治具、設備、作業員の手順など)を層別して原因を特定し
対策の優先順位をつけることが先決。単に検査を自動化しても、不良そのものは減りません。
小規模事業ではQCサークル的な現場改善や外部専門家の助言が有効な場合が多いです。

2)横断組織による活動 — 縦割りの弊害を越える

DXやデジタル対応は複数部署が関わるため、縦割り組織では対応が進みにくいのが現実です。
担当外という意識、縄張り意識、そして「忙しい」「人が足りない」といった言い訳でプロジェクトが停滞します。

横断組織(プロジェクトチームや部門横断の窓口)をつくることは
必ずしも大企業だけの特権ではありません。中小企業だからこそ柔軟に横串を刺せる利点もあります。

縦割りが招く典型的な問題

  • データ収集は現場、分析は技術部門…で誰も手をつけない
  • システム部門が現場の専門性を理解せず外注丸投げ → 過剰な仕組みが導入される
  • 「やるべきこと」が明確でないまま投資だけが先行する

横断組織の効果的な設計ポイント

  • 権限と責任を明確にする(誰が決めるのか、誰が実行するのか)
  • 小さなPoC(試行)を短いサイクルで回す(身の丈の改善→展開)
  • 現場の声をプロジェクトに直結させる(現場担当者を意思決定の場に入れる)

横断組織を通じて、現場の実務ノウハウとIT/技術の知見を結びつけることが
無駄なシステム投資を防ぎ、実効性のあるDXを生みます。

■ 結論:近道は「深掘り」と「横断」の地道な積み重ね

社内変革の“魔法の一手”は存在しません。ですが、次の2点を地道に実践すれば、確実に近道になります。

  1. 問題を深く掘る(なぜなぜ分析) : 手段を先に決めず根本原因を探る。
  2. 部署を横断する仕組みを作る : 権限の整理、現場と技術の橋渡し、小さな試行を繰り返す。

研修はこの両者を促進する場になります。
外部の刺激や他社事例、そして名刺交換やグループ討論を通じて得られるつながりは
社内では得がたい“外部知”の供給源です。研修での気づきと横串を組み合わせて
社内にスモールスタートを広げていきましょう。

次回は「横断組織を実際に動かすための実務設計(役割・KPI・コミュニケーション)」について
具体的なテンプレートとともに掘り下げます。ご希望があればそのまま執筆します。