デジタルサポートを進める現場では、よくこんな声を耳にします。

  • 「〇〇部長のせいでデジタル化が進まない」
  • 「改善活動を進めたいのに、一部の理不尽な反対で頓挫してしまう」

これは企業に限らず、人類の歴史の中で繰り返されてきた普遍的な現象です。
本稿では、この問題の根本にある 「責任と権限」 を紐解きながら、社内の“頑固者”を動かすための
ヒントを探っていきます。

■「責任と権限」から読み解くデジタル抵抗

ケース例

まず確認したいのは、各担当者の「責任」と「権限」は適切に整理されているか? という点です。
ここでは、紙文書時代から残る「承認回覧」の慣習を例に、問題の構造を見ていきましょう。

■紙文書時代の承認フローが生む矛盾

多くの企業で採用されている承認フローは次のようなものです。

  1. 申請:作成者が社内承認を求めて申請
  2. 校閲:上長が内容の誤りや不備を確認
  3. 承認:校閲後の再チェックを経て部門長が承認
  4. 決裁:最終決裁者が責任を持ち押印(実態は“メクラ判”のことも多い)

一見、統制が取れているように見えますが、よく見ると次のような矛盾が潜んでいます。

  • 不備があれば校閲者が申請者へ差し戻し
  • 承認者は校閲者を、決裁者は承認者を問いただす構造
  • ミスが発生した際、責任の所在が曖昧で“犯人探し”が起きやすい

これこそが、ISOで言われる 「責任と権限の不整合」 であり、DX推進の大きな足かせとなります。

■ミスを“人”でなく“仕組み”で防ぐという発想

人が確認する限り、ミスはゼロにはなりません。
大切なのは 「ミスを防ぐ仕組み」 を作り、再発をブロックすることです。

▼仕組み化の方向性(さわり)

① 文書表記のミス → 生成AIで自動校正
「綺麗な日本語にして」と指示するだけで、多くの場合は上長より正確で整った文書が生成されます。

② 技術データ → データベース化してパターン化
過去履歴をDB化することで、入力パラメータさえ正しければ自動処理が可能になります。
承認者は「入力値」のみ確認すればよい構造が作れます。

③ 出納・請求等の承認 → 転記ミスをなくす仕組みづくり
入力支援・自動チェック・自動転記など、ミスを誘発する要因を根こそぎ排除することが重要です。

■DX時代の承認ワークフローは「仕組みの承認」へ

DX時代の承認フローは、
「申請 → 決裁」へ極力シンプル化し、“仕組み自体”を承認する 方向へ変わりつつあります。

  • 関係者はいつでも参照可能
  • 回覧中の「並行閲覧」が可能
  • 人の確認を減らし、仕組みによる品質保証が中心

これは理想論ではなく、既に多くの企業が実践し始めている“現実的なDX”です。

■「上司の仕事が減る」ではなく「役割が変わる」

「そんな仕組みにしたら上司の仕事が減ってしまう」という反発もあるでしょう。
しかし、DXの本質はそこではありません。

上司・管理職の本来の役割とは?

  • “確認作業”ではなく
  • 確認が不要になる仕組みを作ること
  • 組織全体の最適化を図ること

ここにこそ、DX推進の本質があります。

■DXは“現場が報われる仕組み”づくりである

デジタル化の価値とは、

  • 現場がムダ仕事から解放され
  • ヒューマンエラーが減り
  • 組織がより創造的な活動に集中できる

という点にあります。
そして何より重要なのは

DXによって一番報われるのは、上司や経営者ではなく現場で働く担当者です。

組織風土の変革なくしてDXは成立しません。
それを実現できるのは、若手ではなく、社内で影響力を持つ管理職やリーダー層です。
まさにこれこそが、企業における 「責任と権限」 の真意なのです。

上長の意識変革に期待しています。