
経営者からよく聞く「DX投資はいくらまでが適切なのか?」
企業向けのIT・DX支援を行う中で、中堅規模の企業経営者からよく聞かれる質問があります。
「国や親会社からDX推進を求められているが
いったいどの程度まで予算を投資するのが妥当なのだろうか?」
非常に本質的でありながら、意外と表に出にくい“良い問い”だと感じています。
多くの経営者が内心では悩みつつも、明確な答えを持てないテーマではないでしょうか。
大企業と同じDX投資はできないという現実
「ヒト・モノ・カネ」が潤沢な大企業であれば、それなりのDX投資も可能でしょう。
しかし、その水準を中堅・中小企業にそのまま当てはめるのは現実的ではありません。
背景には、
・限られた人材リソース
・日常業務で手一杯な現場
・失敗が許されにくい投資環境
といった事情があります。
今回の記事では、従業員100名から150名程度の製造業を想定し
DX投資を考える際の整理の仕方を解説していきます。
まず確認すべきは「自社のデジタル成熟度」
DX投資を考える前に重要なのが、
自社のデジタル化がどの段階にあるのかを冷静に見極めることです。
デジタル化があまり進んでいない企業の場合
この段階で重要なのは、大きなシステム投資ではありません。
優先すべきは、
・社内人材の育成
・課題業務の洗い出し
・小さな成功体験の積み重ね
です。
「デジタル人材育成」と聞くと身構えてしまいがちですが、
まずは社内OAサポート人員の育成から始めるのがおすすめです。
バックオフィス業務の効率化であれば、
・比較的安価なツール
・他社事例が豊富
・効果を実感しやすい
といった特徴があります。
まずは1システム導入し、「学びと経験への投資」として活用してみましょう。
大きな投資判断は、その先でも十分間に合います。
ある程度デジタル化が進んでいる企業の場合
社内で一定のデジタル活用が進み、雰囲気も整ってきた企業では、
次の視点が重要になります。それは、部門連携や情報共有を意識したDXです。
この段階では、
・部門間の調整力
・社内IT人材の橋渡しスキル
・デジタル活用に対する共通認識づくり
が投資の目的になります。
生産管理システムなども、このフェーズに位置付けられるでしょう。
DX投資の金額は「会社の基本方針」に従う
ここで、冒頭の問いに戻ります。
DX投資金額の妥当性は何で決まるのか?
答えはシンプルです。
「社内のDX・デジタル投資は、会社の基本方針に準ずる」
オーナー社長の場合
オーナー社長の場合、DX投資は社長の価値観や関心が色濃く反映されます。
デジタルに関心がなければ進まず、関心があればその方向に投資が進みます。
サラリーマン社長の場合
一方で、サラリーマン社長の場合は、個人の好みよりも
会社のパーパス(存在意義)や方針を軸に考えるのが現実的です。
「顧客重視」か「従業員ファースト」かで投資は変わる
多くの企業のホームページには、「企業理念」「経営方針」が掲げられています。
その方向性が、
・顧客重視
・従業員ファースト
どちらに軸足があるかで、DX投資の内容は大きく変わります。
顧客重視の場合
- 受発注システムの改善
- クレーム対応の迅速化
- 品質管理・納期遵守
といった領域への投資が中心になります。
従業員ファーストの場合
- 非効率業務の改善
- 手作業の削減
- 業務負荷軽減
といった内向きの改善投資が軸になるでしょう。
「対外的なDXアピール」という選択肢
もう一つの視点として、対外的なポーズとしてのDX推進も存在します。
「デジタルに積極的な企業」というイメージを
・採用
・取引先
・親会社
に向けて発信する目的です。
この方向性が明確になると、投資戦略や投資比率も変わってきます。
肌感覚では、
・最も投資比率が高くなりやすいのは「顧客重視」+「対外的DX」
・比較的抑えながら進められるのは「従業員ファースト」
という印象です。
投資戦略の次は「投資の優先順位」
投資戦略が決まったら、次に重要なのが投資の優先順位です。
DX投資は、
「一括投資して一気に回収できる」ものではありません。
(加工機などの設備投資とは性質が異なります)
だからこそ、
・優先順位付け
・計画スケジュール
・年次予算への落とし込み
が非常に重要になります。
教育予算と投資予算をセットで考え、目標を確認しながら進めていくのが理想的です。
身の丈に合ったDX投資を、経営戦略の中で考える
さすがに「デジタル予算ゼロ」では話になりません。
しかし、身の丈を超えた投資もまた危険です。
今こそ、
経営戦略の中でDX投資を真剣に議論する時期に来ているのではないでしょうか。
正解は一つではありません。
だからこそ、自社に合った形を一緒に考えていきましょう。

