
企業のDX推進が思うように進まない背景には、スキルや予算の問題だけでなく
「人材の活かし方」という組織課題が潜んでいます。
現場でよく見られるのが、
「やる気のある無能(積極的だが方向性を誤る人材)」が混乱を招き
「やる気のない有能(能力は高いが積極的に関与しない人材)」が
十分に活用されていないという構図です。
表現はやや刺激的ですが、本質は「人材特性をどう設計するか」という
マネジメントの問題です。本稿では、両者への具体的なアプローチを整理します。
「やる気のある無能」とは何か
ここでいう「やる気のある無能」とは、熱意はあるものの適切な知識や判断力が不足し
誤った方向に全力で進んでしまう人材を指します。
DX領域では特に、
・目的を理解せずツール導入を急ぐ
・場当たり的な施策を乱発する
・自信過剰で助言を受け入れにくい
といった行動が、現場の混乱や生産性低下を招きます。
問題は“やる気”そのものではなく、「統制されていないエネルギー」です。
1.「やる気のある無能」による混乱を防ぐ
施策① DXの意思決定フローを明確化する
DXが失敗する典型例は、「ツール導入=DX」と誤解されることです。
そこで重要になるのが、明確な決定プロセスの設計です。
例えば、
・新規ツール導入は必ず事前検討会を実施する
・実験導入は小規模検証後に段階的拡大する
・本格導入には有識者の承認を必須とする
といったルールを明文化します。
あわせて、「DXの目的は業務効率化・標準化であり、システム導入そのものではない」
ことを明確に共有することが不可欠です。
仕組みで統制すれば、個人の暴走は防げます。
施策② エネルギーを“無害化”する配置
やる気を完全に抑え込むと不満が蓄積し、別の形で問題化します。
そこで有効なのが、影響範囲を限定した役割設計です。
例えば、
・DXトレンド調査や情報収集
・議事録作成や進捗管理
・限定部署での試験プロジェクト担当
といったポジションを与え、全社影響を避けます。
また、「現場の評価が得られなければ導入しない」というルールを設けることで
誤った方向への拡大を防ぐことができます。
ポイントは“排除”ではなく“制御”です。
2.「やる気のない有能」を活用する
施策③ 最小労力で最大影響を発揮させる
能力は高いが主体的に動かない人材は、実はDX推進において極めて重要です。
彼らには実務を担わせるのではなく、
・最終判断者
・承認者
・技術的アドバイザー
といった役割を与えます。
「5分だけ確認してほしい」「承認だけお願いしたい」といった最小関与型の設計が効果的です。
手を動かさせるのではなく、判断力を活用する。この発想の転換が鍵になります。
施策④ 動きたくなる“合理性”を提示する
やる気のない有能は、「意味がある」「合理的である」と感じなければ動きません。
そこで有効なのが、数値によるメリット提示です。
・このDXで業務時間を30%削減可能
・手作業が減り、意思決定に集中できる
といった具体的な効果を示します。
さらに、「あなたの判断がこのプロジェクトの要である」と専門性を認めるメッセージも有効です。
プライドと合理性の両方に働きかけることで、関与の可能性が高まります。
施策⑤ 上流工程・リスク管理を任せる
無理に現場作業へ巻き込むと、逆に距離を置かれてしまいます。
代わりに、
・ツール選定の最終判断
・DX方向性のチェック
・重大リスクの回避判断
といった上流工程を任せます。
「ここを誤ると全社に影響が出る」という責任ある役割は、優秀な人材ほど引き受けやすいものです。
まとめ:無理に変えず、設計で動かす
DX推進において重要なのは、人を変えることではなく、仕組みを設計することです。
やる気のある無能には
・決定フローで暴走を防ぐ
・影響範囲を限定する
やる気のない有能には
・意思決定権を与える
・最小関与で能力を活かす
・合理性と責任を明示する
このアプローチにより、混乱を抑えながら適材適所を実現できます。
DXはテクノロジーの問題ではなく、組織設計の問題です。
「無理に変える」のではなく、「自然と動く構造をつくる」。
それこそが、DX推進の最適解と言えるでしょう。

