IoTという言葉が日本で注目され始めたのは、2010年頃だったと記憶しています。かなりのバズワードとなり、私たちの会社でもいくつかのシステム開発を行い、同時にブログなどで啓発活動を行ってきました。
あれから十数年が経ち、当時の熱狂は一段落した感があります。大企業では進展が見られ、成果も上がっていることでしょう。しかし、中小企業の現場に目を向けると、話題の割にまだ広がっていない印象があります。
最近になって再びIoTに関する話題を目にすることが増えてきました。特に「DX」や「クラウド」とともに、「IoT」や「ビッグデータ」が注目されています。DXを進める技術として、「AI、IoT、クラウド、ビッグデータ」の4つがあり、これらを活用して工場のDXを進めていくという流れです。
では、なぜこれだけ騒がれても、IoTはまだ限定的な広がりにとどまっているのでしょうか。ここでは、その理由を探っていきます。
IoTが広がらない理由:成功事例と汎用システムの不在
まず結論から言えば、IoTの普及が進まない理由は、「成功事例の分かりにくさ」と「汎用的な製品(エース)の不在」にあると考えられます。
成功事例の分かりにくさ
IoTに関する事例はインターネットで検索すれば多く出てきますが、特に中小企業の現場では「いくらかかるのか?」「どこに頼めばよいのか?」といった疑問が大きなハードルになります。特に予算が限られている中小企業にとっては、これらの不明確さが、IoT導入の敷居を高くしているのです。
汎用的な製品(エース)の不在
これも大きな課題です。IoTが話題になって十数年経ちますが、製造現場で「エース」となるような汎用製品はまだ存在していません。大手SIer(システムインテグレーター)では実績を出しているかもしれませんが、中小企業向けの手軽なパッケージ化された製品がないのが現状です。
弊社でも、IoTシステムのパッケージ化は可能ですが、人手不足のため足踏みしています。大手SIerがワンストップで「IoT導入の第一歩」として低コストのサブスクリプションモデルを提供すれば、多くの企業がIoTに取り組むチャンスになるのではないかと感じます。
中小企業向けのIoT普及の鍵:汎用パッケージ化
IoTデータの活用方法に不慣れな企業には、既存の事例を基にした汎用的なパッケージを提供し、それに沿って利活用を進めることや、外部からのサポートを組み合わせるのが有効です。特に、中小製造業の現場では、自社の技術や製品の違いから「汎用化は無理」と思うかもしれませんが、装置目線で見れば、多くの設備は共通しています。つまり、「設備管理」という観点では十分に共通化が可能です。
最終的には、中小企業向けには手頃な価格の汎用的なIoTパッケージを提供し、次のステージに進むきっかけを与えることが、普及拡大の鍵になると考えます。
IoT導入に必要な専門知識と課題
ただし、IoTシステムの構築には、センサーメーカー、通信事業者、クラウドサービス、設備技術、システム開発など、複数の分野にまたがる専門知識が必要です。これらをまとめて提供できるのは、やはり大手企業やVC(ベンチャーキャピタル)の支援を受けたベンチャー企業だけかもしれません。
大企業や意欲的なベンチャー企業とのコラボレーションによって、IoTの普及を促進し、中小企業にもその恩恵が広がることを期待しています。