
「DXは俯瞰思考で推進しましょう」とお話しする中で、お客様からこんな声をいただきました。
「俯瞰思考の重要性は分かった。でも、それと私の直近の仕事がどう結びつくのかが分からない」
前回の記事では、この問題をケーススタディとして提示しました。今回は、その解決策を考えていきます。
ケーススタディ:製造業の受注管理の課題
ある製造業のお客様の事例です。
- B2B取引で日々大量の注文を受けている。
- 注文方法は顧客ごとに異なり、FAXやPDF添付メールで届く。
- 事務担当者がこれらの情報をExcelに手入力して台帳を作成し、現場へ指示を出している。
- 毎日数百件のデータを入力し、納期に追われる中でミスが許されない環境。
この業務を改善するには、どのようなアプローチが考えられるでしょうか?
ヒント
- 俯瞰思考で源流に立ち返る。
- 上長も巻き込んで改革を進める。
DX視点での俯瞰的思考による解決策
まず、問題を因数分解して整理します。
課題分析
- 受注量が多く、手作業での処理が負担になっている。
- 注文方法がFAX、PDF添付メールなどバラバラ。
- 顧客の多くは新規ではなく、固定客が中心。
- 手入力のため、ミスが発生しやすい。
- 事務担当者に業務負担が集中している。
- Excel台帳の管理が属人化している。
仮説の立案
- FAX・PDF送付企業の割合や件数を把握しているか?
→「そこまではしていないので分からない。」
- データファイル(ExcelやCSV)での直接送付は可能か?
→「過去に上長が取引先に確認したが、担当者レベルで断られた。」
ここで第三者の視点が重要になります。
解決ステップ
Step1:現状把握のためのデータ分析
まず、直近半年ほどの受注データを分析し、以下のように層別します。
- 受注量の多い企業順にソート。
- 各企業の注文方法(FAX、PDF、その他)を紐付け。
このプロセスを通じて、「上位20%の顧客が全体の80%の受注を占める」というパレートの法則が確認できる可能性があります。つまり、全顧客を対象にするのではなく、
取引量の多い上位20%(例えば100社中20社)を優先的に改善対象とする
ことで、大きな効果が見込めるわけです。
Step2:取引先との交渉(経営層の関与)
データ分析を踏まえ、上位20%の取引先に対し、「FAXやPDFではなく、ExcelやCSVなどの電子データで送付してほしい」と交渉を行います。
ポイントは、
- 過去の交渉は担当者レベルの話にとどまっていた可能性がある。
- 現在は取引先側も電子化が進んでいる可能性が高い。
- PDFで送付している場合、その元データはすでに電子化されている可能性が高い。
このため、交渉は事務担当者ではなく、課長以上(場合によっては経営層)が行うのが望ましいです。
「PDFの転記作業はミスを誘発するため、Excelなどの電子データで直接送っていただけないか?」
と提案すれば、取引先にとっても負担が減るため、合意を得やすいでしょう。
まとめ:DXの本質とは
このアプローチにより、
全受注の約80%にあたるデータの手入力を削減できる。
転記ミスのリスクを減らし、確認作業の負担を軽減できる。
事務作業の効率化により、業務の付加価値を高められる。
最終的には、B2BのWeb受発注システムを導入し、「顧客が直接システム上で発注し、決済まで完了できる仕組み」へと発展させることが理想です。DXとは単にデジタルツールを導入することではなく、データ分析を通じて関係者を巻き込み、業務全体を最適化することに他なりません。
このような取り組みが、一人でも多くの方の業務改善につながることを願っています。
「あなたの困ったは、すでに解決できる誰かがいる。」by まちの総務