
企業や団体のDX支援、現場でのITサポートを行う中で、筆者は日々さまざまな課題に向き合っています。現場ヒアリングや国の施策、実際の事例を通じて感じるのは、「求める側」と「求められる側」の間にある“ギャップ”の大きさです。
本シリーズでは、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という一見わかりにくいキーワードについて、順序立ててわかりやすく解説していきます。
- そもそもDXって何?デジタル化と何が違うの ⇦ 今ここ
- DX化が叫ばれる背景とは
- なぜ今「DX」が叫ばれるの?
- DXのキモ「エクスチェンジ」のチェンジ前は何?
- 「DX」を難解にしてしまう原因は?
- では何処から手を付けようか?ではDX議論出来ない
- DXは「まちの総務」的発想がスタート
- DXの未来に何を見ているのか?
今回の内容はテクニカル的なデジタル技術論では無くて
概念から捉えた考え方としての「DX部分」にフォーカスしています。
テクニカルな部分に関しては第二章で考えます。
なので今回は「DXを頭の中で整理しましょう」が目的になります。
まずは「そもそもDXとは何か?」「デジタル化とはどう違うのか?」という根本の部分からスタートしましょう。
■「DXって何?」デジタル化との違いを整理する
DXという言葉の定義があいまいなまま、「デジタル化=DX」と捉えてしまっているケースは非常に多いです。「Dが“デジタル”の略なら、業務効率化のことでしょ?」といったイメージが先行し、混乱を招いているのが実情です。
まずは、経済産業省の「DXレポート2」でも示されている、以下の3つの段階を整理してみましょう。
◎デジタイゼーション(Digitization)
= アナログ・物理データのデジタルデータ化
【例】紙の報告書をWordで作成する、手書き帳票をExcelに置き換える
→ 「ツールのデジタル化」
◎デジタライゼーション(Digitalization)
= 業務・製造プロセス単位のデジタル化
【例】電子化した報告書をワークフローで回覧し、承認フローを自動化
→ 「プロセスのデジタル化」
◎デジタルトランスフォーメーション(DX)
= 組織全体の変革。ビジネスモデルの再構築や価値創出の変革
【例】顧客起点で全体の業務フローを見直し、新しい事業モデルを構築
→ 「ビジネスの変革」
これら3つは、“進化のステップ”と理解するのがポイントです。にもかかわらず、これらを混同したまま「DXを推進しよう」と議論してしまうと、目指すべき姿も進め方もかみ合わず、現場は混乱しがちです。
■移行期:デジタイゼーションの時代
1995年、Windows95の登場はまさにデジタイゼーションの象徴でした。高価だったコンピュータが家庭や職場に広まり、手書きの書類からパソコンでの文書作成へと移行しました。
経済産業省の定義によれば、「アナログ・物理データをデジタルデータに変換すること」がこの段階です。目的は業務の効率化。ワープロ、表計算ソフトなどを使って、紙の作業を置き換えるイメージです。
■応用期:デジタライゼーションの時代
次に来るのが、業務全体を“デジタルで最適化する”段階。デジタイゼーションで電子化されたデータを、ワークフローや業務アプリと組み合わせて、業務そのものを効率化・再構築していきます。
ここでは単なる効率化にとどまらず、「新たな価値やビジネスモデルを生み出す」ことが求められます。つまり、デジタルによる業務プロセスそのものの再設計です。
■変革期:DX=ビジネスの本質を変える段階
そして、最終ステップがDXです。定義としては、企業全体・組織横断的にデジタル化を進め、顧客価値を起点とした事業変革を実現することとされています。
これは、単なるIT導入ではありません。業務、組織、人材、事業のあり方そのものを再構築し、ビジネスの根本を変える“変革”です。
■「変化」と「変革」は違う
ここで多くの企業がつまずくのが、「何をもって“変革”と言えるのか?」という点です。
- アナログからデジタルに移行したら変革?
- 単体のクラウドサービスを導入したらDX?
- サーバーをクラウド化したから変革?
このような例は「変化」ではありますが、「変革(Transformation)」とは異なります。
変革とは「物事を根本から変えて新しくすること。 また、変わって新しくなること。」
つまり、自社の現在地や立ち位置を正しく理解せずに、「DX」という言葉だけが独り歩きしてしまうと、議論はいつまでも平行線になってしまいます。これが、DXが「難解」と言われる原因のひとつです。
■まとめ:まずは“整理”から始めよう
今回のテーマは、技術論やIT導入の話ではなく、「DXという言葉の整理と理解」にフォーカスしました。
デジタイゼーション → デジタライゼーション → デジタルトランスフォーメーション(DX)
この進化の流れを正しく理解することが、DXを現実的に推進するための第一歩となります。
次回は、【第2回】「なぜ今、DXが叫ばれるのか?」をテーマにお届けします。