前職での経験や、現在ITサポートとして多くの企業と接する中で、一つの法則が見えてきました。
それは「企業のデジタル推進のカギは中間管理職(課長)にある」ということです。

一見、意外に思えるかもしれません。しかし、どの企業にも規模の差はあれ「ひとり情シス」的な存在──PCの設定やプリンター管理、社内ヘルプデスクのような役割を担う担当者──は存在しています。

特に社員10名から100名前後の中小企業では、予算や人員面の制約から専門部署を設けるのは難しく、個人の能力や裁量に依存するケースが多いのが現実です。ところが、同じような条件下でも企業ごとに「デジタル活用のレベル」に大きな差が生まれています。その違いを決定づけているのが、実は「中間管理職(課長)」というポジションなのです。

デジタル推進を左右する課長の姿勢

中間管理職がデジタルに対してどのような姿勢を持つかで、社内の進化スピードは大きく変わります。

良い方向性を生み出す課長の特徴

  • 経営層と積極的にコミュニケーションを取り、戦略を現場に落とし込む
  • デジタルに関心を持ち、自ら学ぼうとする姿勢がある
  • デジタルの有用性を理解し、部下へ適切な指示を行う
  • 社内での影響力を活かし、周囲を巻き込む力がある

悪い方向性に陥る課長の特徴

  • デジタルに興味がなく、腰が引けている
  • 上司の言いなりで、自分の意見を持たず、部下には厳しい
  • 「予算削減」にばかり価値を置く
  • 自らデジタルが苦手で、部下任せにしてしまう
  • 変化や改善に消極的で保守的

このような違いが、結果として企業のデジタル格差につながっていきます。

「ひとり情シス」を苦しめる上司の存在

課長の姿勢が消極的な場合、その下で働く「ひとり情シス」は苦境に立たされます。
未来を描けず、次第に「言われたことだけをこなすイエスマン」へと変わってしまいがちです。そんな環境下で、DX推進など進むはずもありません。

経営層が「DX推進」を掲げても、課長が丸投げ状態であれば、現場は停滞します。これは珍しい例ではなく、むしろ多くの企業で日常的に見られる光景です。

上司を選べないサラリーマンの現実

「サラリーマンは上司を選べない」──よく聞かれる言葉ですが、これはまさにこの状況を表しています。

現場の選択肢としては、

  • 無難に過ごし続ける
  • 転職を考えるが、不安から踏み切れない
  • 社内改革を試みるが、現実には困難を極める
  • 時間をかけて淘汰されるのを待つ
    といった、あまり前向きとは言えないシナリオが並びます。

外部からの働きかけとして「管理職研修」などもありますが、表向きは前向きに見えても、実際には“内弁慶型”で変化を拒む課長も少なくなく、非常に厄介です。

行政や政府の旗振りとのギャップ

こうした「人」に起因する課題は、企業だけでなく行政の現場にも見られます。そのため、政府が掲げる「DX推進」や「デジタルリスキリング」といった掛け声が、現場では空回りしてしまうのです。

まとめ:課長という“影のキーパーソン”

企業のデジタル推進を左右するのは、経営層のトップダウンでも、現場の情シス担当者の頑張りでもなく、その間に位置する「課長」という存在です。

課長がデジタルの可能性に目を向け、学び、部下を巻き込み、経営層と橋渡しをする。その姿勢こそが、企業成長の大きな差を生み出していきます。

今回はあえて問題提起にとどめますが、ビジネスパーソンである皆さまも、自社の「課長ポジション」がデジタル推進にどう関わっているか、一度見直してみてはいかがでしょうか。