
ITやデジタル分野への関心が高い方なら、「未来予測」「未来社会」といったテーマには
胸が高鳴るのではないでしょうか。「次に登場するテクノロジーは?」「社会はどんな変化を遂げるのか?」
そんな興味から、総務省のウェブサイトの内容を読み解きながら、2030年代に実現を目指す
“未来の産業像”について考察してみます。
■ 2030年代に目指す「未来の姿」とは
参考にしたのは、総務省の「情報通信審議会 情報通信政策部会 IoT新時代の未来づくり検討委員会
とりまとめ案(『未来をつかむTECH戦略』)」です。
前回は「地域づくり(C:コネクテッド)」について取り上げましたが、
今回はその第二弾として、「産業づくり(T:トランスフォーム)」に焦点を当てます。
「トランスフォーム」とは、設計変更を前提にした柔軟かつ即応的なアプローチで、
技術革新や市場の変化に順応しながら発展していく“変容する社会”のことを指します。
■ 未来の産業像「T:トランスフォーム」の具体的ビジョン
資料では、2030年代の産業像を以下の5つの分野に分けて描いています。
それぞれの未来像を、私自身の予測も交えて解説します。

【1】金融決済:らくらくマネー ★☆☆
ビジョン: 支払いは完全キャッシュレス化。購買履歴や信用データが自動で形成され
家計管理・借入・各種申告までシームレスに対応。
この分野はすでに大きく進展しています。スマホ認証とキャッシュレス決済の融合はもはや必然。
ただし、店舗の自動レジ(無人決済)や決済インフラ整備にはまだ時間がかかりそうです。
購買履歴の一元管理にはプライバシーへの懸念もありますが、行政手続きや税申告と連動すれば
利便性は飛躍的に向上するでしょう。
【2】流通・運輸:えらべる配達 ★★☆
ビジョン: ドローンが空から、ライドシェアの車が玄関に、無人スーパーが近隣に。
配達方法をネットで自由に選択でき、買い物弱者の問題も解消。
技術的にはすでに実現可能な段階にありますが、ボトルネックは「規制」。
国主導で一気に整備を進めるのか、民間の競争原理に任せるのか、この選択が未来を大きく左右します。
強いリーダーシップが発揮されれば、近い将来に実現する可能性は高い分野です。
【3】サービス業:三つ星マシン ★☆☆
ビジョン: 各地の食材や個人の健康データをもとに、AIが最適なレシピを導き出し
有名店の味を瞬時に再現。
夢のある構想ですが、現時点ではまだSFの域を出ません。
実現に近い形としては、高精度な冷凍技術と配送インフラの進化によって、
「調理済みの美味しい食事を簡単に楽しめる」世界が先に到来するのではないでしょうか。
【4】ものづくり:手元にマイ工場 ★★★
ビジョン: 日用品や雑貨をデータで購入し、自分で3Dプリント。プログラミングスキルを活かし
世界に一つだけのデザインを生み出す。
この領域はすでに現実味があります。
素材の多様化やプリンタの低価格化が進めば、「一家に一台マイ工場」も夢ではありません。
近所のコンビニに設置された3Dプリンタで日用品を作る、そんな未来が見えてきます。
製造業にとっても、“設計データの販売”という新たなビジネスモデルが生まれる可能性があります。
【5】一次産業:全自動農村 ★★★
ビジョン: 農業や漁業などをIoT・ドローン・ロボットが担い、人手不足を解消。
生産性を高めつつ、景観も維持。
このテーマは日本にとって喫緊の課題です。
ただし、小規模農家が中心の現状では、資金や人材の問題から個人単位での対応は困難。
国の支援や大手企業の参入を促進し、制度面・環境面の改革を進めることが不可欠です。
技術だけではなく、「仕組みの変革」が問われる領域といえます。
■ まとめ:「変革」は技術よりも制度が鍵を握る
「産業づくり(T:トランスフォーム)」の未来像を俯瞰すると、
テクノロジーの進化そのものよりも、環境整備・制度改革の遅れが最大の課題であることが見えてきます。
理想を掲げるだけでは進みません。資金、人材、そして持続的な支援が不可欠です。
国が主導するのか、民間が先導するのか、その優先順位のつけ方こそが未来を左右します。
社会主義的な方向で一気に進めるのか、それとも従来型の市場競争で推進するのか。
いずれにしても「待ったなし」。2030年代に向けて、今まさに決断の時が迫っています。

