生産管理システムをDXの観点から考察するシリーズブログです。
前回は 「なぜ汎用品だけではいけないのか」 という現場の実情について掘り下げました。
今回は、 「汎用品ではまかなえない範囲」 について考察し、企業の生産活動とシステムの“オリジナル”の違いについて議論を深めます。

汎用品ではまかなえない領域とは?

前回の記事では、 生産管理システムの7割程度は共通化できるのではないか? という考え方を示し、
残りの3割はオリジナルの要素を維持しつつ、パラメータ設定などで柔軟性を持たせることは可能ではないかと考察しました。

しかし、ここで改めて問い直したいのが、 「企業の生産活動のオリジナル」と「システムにおけるオリジナル」は本当に同じものなのか? という点です。

ユニクロモデルに学ぶ、汎用化と個別最適のバランス

このテーマを考える上で、参考になりそうな事例として ユニクロのビジネスモデル を挙げてみます。

ファッション業界には多種多様なメーカーが存在し、使用する素材や縫製技術、生産拠点、販売価格帯も異なります。
高級ブランドからファストファッションまで、そのスタイルはさまざまですが、 最終的には「洋服を着る」という目的は共通 しています。

この点に着目したのがユニクロです。
ユニクロは、アウターからインナー、パンツ、靴下まで 一つのブランド内で統一的な製品を展開 し、
その結果、 全製品にRFIDタグを導入し、無人レジによる効率的な販売管理を実現 しました。
この汎用化の成功が、他社の追随を許さない競争優位性を生み出しています。

また、個々のデザインのこだわりを極力排除し、カラーバリエーションやシリーズ化を推進することで、
「没個性」による効率化を図る戦略 を採用している点も特徴的です。

自社工場に当てはめた場合の課題

では、 ユニクロのような汎用化のアプローチを、自社の工場に取り入れるとどうなるのか?

企業ごとに生産のこだわりや独自の工程がある中で、
オリジナルなこだわりを維持するのか
汎用システムに適応させるために妥協するのか
この判断が経営の大きな分岐点となります。

こだわりを優先すれば、
汎用システムでは対応できず、高額なカスタマイズ費用が発生する
結果として導入コストが膨らみ、システム化自体が頓挫する可能性がある

一方、汎用システムに寄せると、
自社の独自性が失われ、競争力が低下するリスクがある
長年の業務フローを変えることへの社内抵抗が大きくなる

DXの本質的な判断とは?

このように、 「DXを推進するかどうか」 という判断は、単なるシステム導入の話ではなく、 経営判断そのもの になります。
こだわりを守るか、業界標準に合わせるかの選択は、 一歩踏みとどまるか、前進するかの分岐点 でもあるのです。

そして、このような判断を企業単位で行い続ける結果、
各社のオリジナル仕様が残り続け、業界全体としての標準化が進まない
結果として、数十年にわたり「変わらないまま」旧態依然の業務フローが継続される

これは、DXの最大の課題であり、 「業界の革新が進まない理由」 でもあるのです。

まとめ:正攻法だけでは変えられない壁

DXを進める上で、「自社の特殊性」を理由に標準化を拒む企業は少なくありません。
しかし、それが 本当に必要なオリジナルなのか、単なる慣習なのかを見極めること が、DXの第一歩となります。

システムは 「目的を達成するための手段」 であり、
手段が目的化してしまうと、本来のDXの意義が失われてしまいます。

汎用システムとオリジナルのバランスをどのように取るか?
これが、今後のDXを考える上で、企業が向き合うべき本質的な課題となるでしょう。