■「ドリルを買う人が欲しいのは、穴である」

これは、マーケティングの世界で広く知られる有名な理論、「レビットのドリル理論」の核心を突く一節です。

「人がドリルを買うのは、ドリルが欲しいからではなく“穴”が欲しいからである」

つまり、「ドリル」という製品そのものではなく、「穴を開ける」という目的を叶えるための“手段”としてドリルが選ばれているということです。これは私たちの仕事や日常におけるツール選び全般にも通じる本質的な考え方です。

■デジタル化も「手段」であり、「目的」ではない

このドリル理論を、そのまま「デジタル化」に置き換えてみましょう。

昨今の風潮として、「デジタル化は急務だ」「DXに乗り遅れるな」といったメッセージが溢れています。しかしここで見失ってはいけないのは、「デジタル化」はあくまでも手段であり、それ自体が目的ではないという視点です。

極端な言い方をすれば、「デジタル化をするためにデジタル化する」という“目的化の罠”に陥っていないか、見直す必要があります。

■目的は?──実は「ラクをしたい」が本音では

では、本来の目的とは何でしょうか?

もちろん人や企業によって目的はさまざまですが、業務の現場視点でシンプルに突き詰めると、多くは「ラクをしたい」「面倒なことを減らしたい」に集約されます。

「業務効率化」や「改善」といった耳障りの良い言葉で語られがちですが、その本音は「なるべく手間をかけずに済ませたい」という、実に人間らしい願望です。

■「デジタル化=面倒くさい」の壁

ところが、ここに大きな壁が立ちはだかります。それが「デジタル化のハードル」です。

「ラクをしたい」はずなのに、「デジタルを学ぶのは大変そう」「操作が難しそう」という先入観や不安から、かえって現状維持を選んでしまう人が多くいます。

つまり、
「ラクをしたい気持ち」<「デジタル化の面倒さ」
という構図が成立してしまい、結局デジタル化が進まないというジレンマに陥ります。

■理想は「ドラえもん方式」

この状況を打開するヒントとして、少し発想を変えてみましょう。

「難しいことは抜きにして、ドラえもんに“〇〇を解決する道具”を出してもらいたい」
──そんな風に思ったこと、誰しもあるのではないでしょうか?

この「〇〇を解決する道具」こそが、まさに“ドリル”に当たります。
誰も、ドリルそのものを組み立てたいわけではなく、「欲しいのは完成された、目的を果たせる道具」なのです。

■家電選びとSaaS導入は同じ構造

この発想を、家庭用家電や業務用SaaSの導入に置き換えてみましょう。
たとえば洗濯機を選ぶとき、目的は「服をキレイに洗いたい」ですよね。選ぶ基準は人それぞれです:

  • 一人暮らしだから小型で十分
  • 価格重視で最低限の機能だけ
  • 乾燥機能付きが便利
  • メジャーなメーカーの信頼感
  • 口コミ評価を参考にする

SaaS導入も、これと同じです。「誰に、どんな機能が必要か?」を明確にし、目的から逆算して選ぶべきなのです。

■「使いこなすまで」が最大の壁

さらに言えば、デジタルツールには家電以上の“学習コスト”がかかります。

購入前に試せるツール(フリートライアル)も多いですが、購入後に「マニュアルをじっくり読み込む人」は意外と少ない。多くの人は、まず使ってみて、困ったときだけ説明書を参照するというスタイルです。

だからこそ、「導入後の学習支援」が重要になります。
ここを乗り越えられずに、二の足を踏む人が多いのです。

■「助けてくれる人」の存在が決定打

そして最後のボトルネックがここです。
「自分では無理。誰か、やってくれないかな」

デジタル化において、「使い方を教えてくれる人」「一緒に選んでくれる人」の存在は、成功の鍵を握っています。もしそうしたサポーターがいなければ、結局は
「デジタル化」+「面倒」=「現状維持」
という式が成立してしまうのです。

■「まちの総務」と、相互支援コミュニティの可能性

この課題を解決するには、「おせっかい力」のある支援者が近くにいることが理想です。

私が提唱する「まちの総務」は、まさにそのような存在を目指しています。そして、これを個人や団体に閉じるのではなく、SNSを活用した「相互支援のコミュニティ」へと広げていくことが、これからの課題だと考えています。

信頼できる人たちが、実際の利用方法やおすすめツールを共有し、忖度のない評価をし合える──そんな環境こそが、手段としてのデジタル化を健全に推進する土壌になるはずです。

■最後に:一緒に“ドリル”を選び、支え合える仲間を探しています

「目的」と「手段」の違いを意識しながら、必要な“ドリル”を見極め、それを支援できる人とつながる。

この第一歩として、ドリル選び=ツール選定をサポートしあえる仲間を募集しています。
ともに、無理なく・楽しく・目的を叶えるDXの形をつくっていきませんか?