
多くのお客様へのITサポートを通じ、現場改善に取り組む中で「共通する課題」が数多く見えてきます。今回は、ある中堅製造業で実際に起きた「運送費精算業務の属人化」から始まったDX事例をご紹介します。
■課題の発端:人海戦術に依存する請求処理
ある中堅製造業の担当者からの相談内容はこうでした。
「製品の配送をお客様ごとに異なる運賃設定のため、請求処理をすべて手作業で振り分けている。これを効率化できないか?」
実際の現場では、Excelにまとめられた「顧客別運賃表」を参照しながら荷物量と掛け合わせ、伝票を作成。優秀な担当社員が膨大な作業を“職人技”でこなしていました。まさに属人化の典型例です。
この状況に危機感を持った上司が「システム化できないか」と相談してきたのです。
■解決アプローチ:2つの選択肢
業務を整理すると、対応の方向性は大きく2つに分かれました。
- 案①:運賃条件をプログラム化し、伝票を自動出力する(デジタイゼーション)
- 案②:根本原因を追求し、運送費算出ルールそのものを見直す(DX的アプローチ)
案①は一見シンプルですが、顧客数が3桁を超え、条件が複雑すぎるため外部依存が避けられません。さらに頻繁な変更対応が発生し、コスト・工数の両面で非効率になりがちです。
■DXの突破口:運送費ルールの明確化
深掘りしていくと、課題の本質は「社内で運送費の明確な規定が存在しない」ことでした。営業担当者が過去の慣習をもとに個別交渉で決めており、燃料費高騰への価格転嫁もできない状態だったのです。
ここで提案したのが、「運送費を社内規定として標準化する」というアプローチ。
- 顧客別の運賃 → 廃止
- 「距離」と「荷物量」で算出する一律ルール → 導入
※実務的には「距離のみ」で十分ですが、まずは妥協案として量も加味しました。
これは多くの大手配送会社が取り入れている地域別の一律運賃算出方です。
■経営課題への発展と意思決定
この提案に対し、担当部署単独では決められないとの意見が出ました。そこで経営層を交え、現状の問題点を整理したうえで経営会議へ付議。
結果として「運送費の見直し」は全社的なテーマに発展。最終的には経営トップの決断により、顧客への通達として正式に発表されました。
もちろん全顧客がスムーズに受け入れたわけではありません。しかし、約7〜8割の主要取引先が了承。これにより、従来の複雑な条件分岐は不要となり、ノーコードアプリで自社内メンテナンスが可能な仕組みを構築できました。
■成果と学び
今回の取り組みによって得られた成果は大きく3点です。
- 属人化の解消:運送費算出の一律化により、担当社員の負担を大幅削減。
- 営業の効率化:顧客交渉での判断基準が明確になり、価格改定も容易に。
- 経営的インパクト:燃料費の高騰に即応できる料金改定ルールを確立。
もともとは一部署の事務作業改善にすぎなかった課題が、全社の仕組みを変えるDXへとつながりました。
■まとめ
DXとは「単なる業務効率化」ではなく、組織全体の仕組みを見直すことで競争力を高める取り組みです。
今回の事例では、現場の一人の課題意識から出発し、上司・経営層を巻き込み、最終的に全社改革に至りました。
まさに「レッツDX」と呼ぶにふさわしいプロセスです。