
なぜ中小製造業ではIoTが盛り上がらないのか
「IoT」という言葉が一般化してから、すでに数十年が経過しました。
大手製造業では一定の普及が進んでいる一方で、身近な中小製造業を見渡すと、導入はまだ限定的です。
仮に取り組んでいたとしても、「一部導入」や「評価段階」にとどまっているケースが多いのが実情では
ないでしょうか。
通信技術やクラウド環境は整い、コスト面でも以前に比べれば導入しやすくなっています。
それにもかかわらず、なぜIoTは中小企業で本格展開されないのか。
日々、企業やお客様と対話する中で見えてきたヒントを、今回は共有したいと思います。
「IoTはやりたいが、費用対効果が見えない」という壁
よく耳にするのが、次のような声です。
「社内ではIoTの必要性を説明しているが、メーカーに相談すると“数百万円”と言われる」
「推進したい気持ちはあるが、予算確保と費用対効果の説明が難しい」
これは決して珍しい話ではありません。「費用がかかるから導入できない」という悩みは
一見すると単純な問題に見えますが、実は本質はそこではありません。
問題は“費用”ではなく“費用対効果の説明力”
もう一歩踏み込んで考えると、重要なのは金額そのものではなく費用対効果の明確さです。
例えば、
- 100万円の投資で
- ○○が削減でき
- ○○が改善され
- 3年で投資回収できる
といった具体的なストーリーが描けなければ、デジタル投資は社内で理解を得にくいのが現実です。
生産設備であれば、「生産性向上=利益増加」という構図が比較的わかりやすいため、投資判断も
しやすい。一方で、IoTはこの説明が難しい分野だと言えます。
中小製造業でIoTが進まない2つの理由
① 費用対効果が見えにくい(ビッグデータ活用の弱さ)
IoTを導入すれば、確かにデータは取得できます。
しかし、その先の問いに明確に答えられているでしょうか。
- 取得したデータを何に使うのか
- 状態監視なのか
- 異常検知なのか
- 生産数量の可視化なのか
この「何に使うか」の具体性が不足しているケースが非常に多く見受けられます。
よくあるのが、「とりあえずデータを取れば、何かに使えるはず」という手段の目的化です。
本来は、ビッグデータの収集と分析によって、
- 設備保全
- 予知・予防保全
- メンテナンス最適化
といった成果につなげる必要があります。
しかし、これらは設備技術の専門知識に加え、統計やデータサイエンスといった高度なスキルも求め
られます。この“活用側の専門性”が不足すると「データを貯める仕組み」だけが量産され、結果的に
使われないデータばかりが蓄積されてしまいます。
その結果、最終的に出てくる言葉が「で、費用対効果は?」なのです。
② IoTの汎用製品が少ないという現実
もう一つの要因が、IoT環境(ハード・ソフト)の汎用製品が少ない点です。
農業分野では、ビニールハウス内の環境監視など、汎用IoT製品が多数登場し、価格破壊も進んでいます。
一方、製造業向けIoTでは「これさえ入れれば良い」という絶対的エース商品が見当たりません。
設備ごとの個別開発、用途別製品が中心で、センサー信号の共通化や標準化まで発想が追いついて
いないのが実情です。
※実は弊社でも数年前、複数の設備コンディションセンサーを統合し、SIM経由でクラウドに集約する
汎用基盤の開発に取り組んだことがあります。ただ、当時は少し時期尚早だったのか、途中で断念した
経験もあります。
IoT普及の鍵は「価格破壊」と「標準化」
この分野は、やはり体力のある企業やベンダーが主導すべき領域だと感じています。
理想を言えば、
- センサー
- SIM基盤
- 通信費
- クラウド環境
- ソフトウェア
すべて込みで10万円以内。
このレベルまで価格が下がれば、費用対効果を議論する前に「まず入れてみる」世界が見えてきます。
中小製造業IoTの理想的な姿
卵が先か鶏が先か、という議論ではありますが、
- 設備にIoT機器が標準搭載され
- データ収集が当たり前になり
- 分析は専門組織(外部含む)が担う
という分業モデルが成立すれば、
- 設備生産性向上
- 予知・予防保全
- 部品・在庫管理の高度化
まで一気に進むはずです。
大手製造業だけでなく、仕組みの汎用化と低価格化が進めば、中小製造業の生産性はまだまだ向上
できると私は信じています。
そのためにも、各社がバラバラに取り組むのではなく、体力のある企業が標準パッケージを整備し
業界全体で共有していく。
このテーマは、まだまだ熱く語りたいところですね。

