デジタル人材育成において、我々は常にあるべき方向性を模索し続けます。ある教育機関の代表者との対話を通じて、再確認した重要なポイントがあります。

全体最適や改善改革を実現するには、俯瞰的思考が不可欠です。

俯瞰思考とは、高い視点から視野を広げ、過去や現在のデータをもとに多角的な視点から分析・統合し、全体最適な解決策を導き出す能力です。事業環境が絶えず変化している現代においては、過去の成功体験がそのまま通用する保証はありません。常に新しい情報や知識を吸収し、活用していくことが必要です。

厚生労働省の情報によれば、俯瞰的思考はいわゆる「鳥の目虫の目」とも言われ、局所的な最適化が全体的な最適化の妨げとなることがあります。「木を見て森を見ず」という諺もこの考え方を示しています。

具体例として、最近話題になった「行政の脱ハンコ」を挙げることができます。かつては業務改善の観点から、電子印などを導入して「デジタル化」を進める動きもありました。しかしその施策は一部の改善に留まりました。

しかし俯瞰的な視点から、「ハンコ自体が必要なのか」という根本的な問いに立ち返ると、新たな議論が巻き起こりました。既存の業務や慣習に執着する勢力に対抗しても、なかなか結果を出すことはできませんでした。そのため、問題を俯瞰的に見る力を持つ指導者の発言が大きな影響を与え、容易に「ハンコ不要」の方向へ転換することができました。

このような事例からもわかるように、俯瞰的思考は問題解決において極めて重要です。デジタル化の推進においても、単に技術の導入ではなく、根本的な原理や目的に基づいた全体最適なアプローチが求められます。「問題だ!問題だ!」と騒ぐだけでなく、問題の本質や目的、歴史的背景を理解し、代替案や必要のない業務の発見に努めることが重要です。

また、このような思考力は単に教育を通じて身につけられるものではなく、個々の性格や特性にも関わる部分があります。この点についても、「デジタル脳とアナログ脳」の観点から深く考察していきたいと思います。