
生産管理システムをDXの観点から紐解くシリーズです。
前回は、「一般的な生産管理システムに登録するデータ作成部分のDX」について解説しました。
設計図面から必要な材料の種類や数量、部材の手配、加工外注先の選定まで含めたデータ作成の仕組み化は難しいものの、DXにおいてこの事前データ作成の仕組み化は極めて重要なポイントです。
今回は、この部分についてさらに掘り下げて考察していきます。
生産管理システムのデータ作成ロジック
設計図面をもとに、必要な部材や材料、外注先の手配までを自動的に導き出すロジックを構築するのは非常に困難です。
多くの企業では、経験豊富な担当者やスペシャリストに依存しているのが実情でしょう。
しかし、このプロセスをシステム化することは可能です。
DX化に必要な考え方:誤差を受け入れる柔軟性
システム化を進めるには、関係者全員が「どれだけ正確に計算しても誤差は避けられない」という意識を持つことが重要です。
特にB2B企業では、価格競争が激しく、コスト計算に対して非常にシビアな姿勢を取ってきました。
見積りの際には、詳細な原価計算や人件費、その他の経費を算出し、精度の高い数字を導き出していると思います。
しかし、改めて問いかけてみてください。
「その見積りデータは本当に正解でしょうか?誤差は全くありませんか?」
多くの担当者が、「多少の誤差はありますが、精度は高いはずです。」と答えるのではないでしょうか。
ここで重要なのは、「多少の誤差」「精度は高いはず」という言葉に含まれる曖昧さと、担当者のプライドです。
建設業界との比較:データ作成に求められる精度
この考え方を、さらに規模の大きな建設業界に当てはめてみましょう。
建設プロジェクトは着工から完成までに数年かかるケースもありながら、見積りや部材発注は早い段階で行われます。
行政案件であれば入札が必要ですし、直契約の場合でも、設計図面が確定すれば速やかに見積りや手配を進める必要があります。
では、建設業界ではどれほどの精度が求められているのでしょうか?
知り合いの建築関係者にリサーチしたところ、意外にも「大まかなそろばん勘定」で決定している部分が多いとのことでした。
もちろん、極端に高すぎる見積りや、利益が出ない価格設定は避けなければなりません。
そのため、建設業界では「ある程度のブロック化」や「平米単価」などのロジックを活用し、経験則に基づいた計算方法を用いているのです。
工場におけるデータ作成のDX化:パターン化の重要性
ここで勘違いしてほしくないのは、
「適当な見積りでいい」という話ではなく、適切なバランスを取ることが重要だ
という点です。
これを生産管理システムに応用するためには、「多少の誤差」「精度は高いはず」 という部分を許容し、データ作成のモデル化(パターン化)を進める必要があります。
例えば、過去の取引データを分析すれば、多くの共通点が見えてくるはずです。
基本となるベース型(プラットフォーム)があり、製品仕様ごとにオプション展開すれば、各種パーツを部品化できます。
その部品ごとに必要な材料や工賃を紐づけることで、積み上げ式のデータ作成ロジックを構築できるでしょう。
車を例にすると、ボディの種類、エンジンのタイプ、オプションを組み合わせることで車種が決まります。
生産管理システムでも、パターン化が進めば、基本モデルを決めたうえでオプションを選択するだけで対応できるようになるかもしれません。
属人化を解消するために
一品一葉の製品であっても、過去のデータを分析すれば、実は似たような受注や製造を繰り返しているケースが多いのではないでしょうか?
「担当者の頭の中のロジック」も、完全にゼロから考えているわけではなく、過去データの積み上げと経験則による判断が大部分を占めています。
このロジックをシステム化できれば、企業内の属人化問題を大幅に解消できるはずです。
DXの本質は、単なるデジタルツールの導入ではなく、こうした業務プロセスの見直しと仕組み化にあります。
このモデル化に興味を持ち、共に挑戦できる経営者が増えることを期待しています。