DX(デジタルトランスフォーメーション)に関するブログやIT支援を続けるなかで、現場でのヒアリングや事例、さらには国が掲げる施策などに触れる機会が増えてきました。
こうした中で見えてくるのが、「求める側」と「求められる側」の間にある“認識のギャップ”です。

今回は、そもそもなぜ「DX」はこれほどまでに難解に感じられるのか?というテーマについて、順序立てて考察してみたいと思います。

前回のおさらい:「エクスチェンジ」の“チェンジ前”とは?

前回は「エクスチェンジ(変革)」の前提として、テクノロジー導入によって便利になった仕組みの事例を紹介しました。
今回のテーマでは、その“変革”がなぜわかりにくくなるのか?という“難解さの正体”に迫ります。

「DX」が難しくなる4つの要因

1. 技術用語や概念が複雑すぎる

原因: DXに関連する用語や技術は、AI、IoT、クラウド、ビッグデータなど多岐にわたります。
これらのカタカナ用語や技術的概念が一般のビジネスパーソンにとって馴染みが薄く、理解の障壁となってしまうのです。

特に「デジタル横文字アレルギー」がある方にとっては、内容以前に“言葉”の時点で拒否反応が起きてしまいます。

2. 全社的な影響範囲の広さ

原因: DXは単なるITの導入ではなく、ビジネスモデル、業務プロセス、企業文化にまで及ぶ“全社変革”です。
そのため、関係部門や影響範囲が広がり、結果として理解や調整が困難になります。

たとえば製造業のスマートファクトリー化では、生産ラインの自動化やリアルタイムデータ分析、サプライチェーンの統合など、部門横断の対応が求められます。
結果として、各部門間での足並みが揃わず、混乱を招くことも。

3. 目標やスコープが曖昧

原因: 「業務を効率化するためにDXを推進する」といった漠然とした目標では、現場レベルで何をどう変えるべきかが見えてきません。
KPIも設定されないまま進行すると、成功の定義も曖昧で、プロジェクトの評価ができなくなります。

目的や成果が不明確なDXは、関係者のモチベーションを削ぎ、形だけの取り組みに陥るリスクが高まります。

4. 組織文化や従業員の抵抗

原因: 長年培われた業務フローや価値観に慣れている社員にとって、変革は「脅威」に映ります。
特に、紙ベースの業務に慣れた世代にとっては、デジタル化の波は戸惑いの連続です。

ある企業では、紙帳票を廃止してデジタルシステムに移行しようとしましたが、現場からの反発で定着が進まず、最終的には“紙との併用”という中途半端な形で収束してしまった例もあります。

DXの“難解化”が招く現状と課題

これら4つの要因が複雑に絡み合うことで、多くの企業が「DX=よくわからないもの」「何から始めてよいか分からない」と感じています。
結果として、「とりあえずデジタル化できるところからやろう」という動きにとどまり、本来目指すべきビジョンからはどんどんズレていく――そんなケースが目立ちます。

そして、その象徴的な存在が“鳴り物入りで設立されたものの、実質機能していない『DX推進部』”です。
掛け声だけが先行し、ビジョンや成果が伴わない…そんな現場の声が後を絶ちません。

まとめ:DXを“解きほぐす”ことから始めよう

DXを成功に導くには、まず「なぜ難しいと感じるのか?」という問いに向き合うことが不可欠です。
専門用語の翻訳、スコープの明確化、部門間の連携、文化的な摩擦への配慮——こうした基礎的な“ほぐし”を怠ると、DXは「変革」ではなく「混乱」になってしまいます。

次回は、こうした“難解なDX”をどうすれば現場に定着させられるのか、そのヒントとなる事例やアプローチを紹介します。