デジタルサポートの現場で頻繁に耳にする声があります。

  • 「〇〇部長が反対するせいでデジタル化が進まない」
  • 「改善活動は進めたいが、理不尽な反対で頓挫してしまう」

これは特定の企業に限らず、歴史上繰り返されてきた“よくある課題”です。
しかし企業の現場に落とし込むと、単純な仕組みや技術以前に人間関係や社内政治が絡み
非常にややこしい問題へと発展します。

今回は、解像度を上げていくつか事例を紹介します。

ケース1:一人の経理部長が原因で出納書類の電子化が進まない

企業間で見積書・請求書をやり取りする場合、かつては紙に押印して郵送するのが当たり前でした。
しかし現在、9割以上の企業では PDF のメール送信で完結します。

ところが、ある中堅製造業では
「確認はメールで構わないが、最終的には押印原本を紙で郵送してほしい」
と強く求められていました。

理由はただ一つ。
「経営担当の〇〇部長が電子が嫌いだから」

担当者や取引先は従うしかありませんでしたが、
その後、ハンコ廃止の流れや部長の退職を機に、あっけなくメール解禁。
結果、社内外ともに手間が大幅に削減されました。

ケース2:技術文書の電子回覧が“一人の反対”で進められない

図面、条件表、製造指示書など、技術文書の社内回覧処理。
紙の押印回覧、ファイリング、工場間移動など、手間とコストは莫大です。

デジタル化による電子承認と最新版共有が何度も提案されたものの——
「技術部門の〇〇部長がPCが苦手で紙を譲らない」
という理由で却下。

社内で発言力の強い人物の反対は、二代目社長やDX推進担当でも突破できず
改善は何年も停滞していました。

ケース3:請求書発行はシステム化しているのに、最後だけ紙と押印

受発注システムは電子化され、請求処理まで自動化されていた企業の話です。
しかし、発行直前に「営業部門長が紙で確認して押印」という慣習が残っていました。

そのため、

  1. システム出力 → 2. 印刷 → 3. 押印 → 4. スキャン → 5. 電子データ再送信
    という、意味不明な逆流プロセスが発生していました。

理由はただひとつ。
「電子が苦手なので紙がいい」

変革の裏に存在する“想像力の欠如”

これらに共通するのは、

  • 当事者本人は邪魔している意識がない
  • 「退職までそっとしてほしい」という心理
  • 自分の判断がどれだけ周囲に迷惑をかけているか想像できない

という点です。

強く思い込んでいる人ほど扱いが難しく、強制すれば意固地になり、社内政治にも支障が出ます。
担当から外したくても、立場上それも困難
結果、全体最適は進みません。

突破口は“外部の第三者”に委ねること

利害関係がない外部の人間が、他社事例や客観的視点を交えて話すと
当事者も自然と立場を変えざるを得なくなります。

私が研修で事例紹介をすると、
多くの参加者が頷き、該当する本人だけが「うちの話ではないですよね?」という顔をします(笑)

次回は、具体的なアプローチ方法として
担当者の責任と権限の再確認
について解説します。