
仕事柄、多くの専門家とお話しする機会があります。雑談の延長から制度や法律の話に発展することも多く、なかでも最近、個人的に関心を持ったテーマが「相続」です。
相続と聞くと、人生で数回あるかどうかの出来事。法律や制度が複雑で、なじみが薄いものの一つです。ただ、その分野に詳しくない一般人だからこそ気づく視点があるのではと考え、“素人目線”から、調べた内容を整理してみたいと思います。
※一部、専門的な表現や解釈に不正確な箇所があるかもしれませんが、ご了承ください。
相続と認知症──今、避けては通れないテーマに
前回のコラムでは「相続における財産・権利・義務」について、基本的な法律の枠組みをご紹介しました。
今回はその続編として、「高齢化と認知症が相続に与える影響」に焦点を当てていきます。
65歳以上の5人に1人が認知症に──社会はどう変わるのか?
厚生労働省の研究によると、2025年には65歳以上の認知症患者が約675万人(有病率18.5%)、つまり5.4人に1人が認知症を患うと予測されています(出典:内閣府「平成29年 高齢社会白書」)。
この数字が示すのは、超高齢化社会において「認知症を患う高齢者が特別ではない時代」が訪れるということです。
実際に、すでにその傾向は進行しており、これが相続問題にも大きな影響を与え始めています。
認知症と相続──2つの典型的なケース
以下のようなケースが、今後ますます増えていくと考えられます。
ケース1:身寄りがなく、財産がある
家族がいない高齢者が亡くなった場合、財産の管理や相続が不透明になります。
法的な手続きが行われないまま凍結された預金や、いわゆる“タンス預金”が数十兆円規模にのぼるという試算もあります。こうした財産は最終的に国庫に帰属するケースもありますが、社会全体にとっても課題です。
ケース2:家族はいるが、本人が認知症を患っている
施設に入所しているケースなども含め、本人に意思能力が無い場合、相続手続きにおいて「成年後見制度」の活用が必要となることがあります。
成年後見制度とは?
成年後見制度とは、判断能力が低下した人の権利を保護するために、代理人(成年後見人)が本人に代わって法律行為を行う仕組みです。
例えば、遺産分割協議を行う場合に相続人の一人が認知症であると、その協議は無効になります。こうした場合に成年後見制度を活用し、適切な後見人を立てる必要があります。
ただし、この制度には課題も多く、たとえば:
- 親族との関係性が複雑化する
- 第三者が介入することで手続きが煩雑になる
- 後見人への報酬など金銭的負担が発生する
など、「家族間の問題だからこそ第三者を入れたくない」という心理的な抵抗も理解できます。
穏便に進めたいなら、唯一の方法は「遺言」
では、成年後見制度を利用せずに相続を穏便に進める方法はないのでしょうか?
結論から言えば、「遺言相続」だけが唯一の方法です。
つまり、認知症になる前に、本人がしっかりと意思を示した「遺言書」を残しておくことが極めて重要になります。これにより、法定相続や遺産分割協議を避けることができ、成年後見制度の手間や負担を軽減することができます。
遺言書は、単なる書類ではありません。
それは未来の家族へ向けた「意思の手紙」です。
まとめ:認知症社会と相続に、どう備えるか?
これからの日本では、「相続=家族の話」ではなく、「社会全体の課題」として向き合う必要があります。
認知症患者の増加は止められない現実ですが、備えることは可能です。
「いつか」ではなく、「今から」考えること。
それが、将来のトラブルを防ぎ、家族にとっても穏やかな選択肢を残す手段になります。
次回予告:「遺言相続」──未来に託す“意思のかたち”とは?
次回は、「遺言相続」についてより詳しく解説します。法的効力、作成のポイント、注意点など、実践的な観点からお届けします。お楽しみに。